教科書会社がデジタル教科書を作ると?

普通、ものを作る時は、それを使う人を意識して作ります。消費者は、王様です。そして、沢山売れれば価格を下げることが出来ます。普通の本でも、著者は読者を意識して書きます。「電子書籍」になっても、それは、変わらないでしょう。

ところが、教科書という製品は、違うのです。
先ずは、価格ですが、これは政府買い上げの公定価格で、一冊の値段は決まっています。いくら沢山売れても値段を下げる必要はありません。だから、沢山売れれば売れるほど儲かります。同じ教科で、複数の教科書会社が教科書を出していれば、シェアーを沢山取ったほうが儲けかしらになります。

そのシェアーを取るには、文部科学省の検定に合格して、都道府県によって、採択されなければなりません。
その採択方法は、Wiki から、当該部分を引用しますと、

教科書の採択区域は義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(教科書無償措置法)第12条により都道府県教育委員会が「市若しくは郡の区域又はこれらの区域をあわせた地域に、教科用図書採択地区を設定しなければならない」とされている。実際には、市・郡を単位として採択区域が定められている場合もあるが、地理的条件や文化圏・経済圏などが同一の地域をひとまとめにして、複数の市や郡からなる採択区域が定められている場合もある。また政令指定都市では、市内をいくつかの採択地区に分けて地区ごとに採択をおこなっている場合もある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/教科書採択

多くの都道府県は、いわゆる広域採択と言って、複数の市町村にまたがる採択をしています。ある教科では、全県同一教科書というところもあると思いますよ。
その理由として、生徒が引越しした時に、違う教科書に戸惑わないように、と表向き言われていますが、実際は、各地域に移動する教員が、違う教科書になって教え方を変えなければならないのを嫌うからでしょう。

そして、更にWiki から引用すれば、
市区町村教育委員会はその設置する学校について、各教科・分野ごとにそれぞれ教科書を採択する。市区町村教育委員会の教科書採択の際には、都道府県教育委員会からのアドバイスや、各社の教科書についての現場の教員からの感想・意見なども参考にする。

私が岐阜県のある市の教育委員を務めた経験から行くと、採択を決定する会議では、もう何を採択するかは、決まっていて、教育委員は、ただ承認するだけです。私一人が異論を挟んだところで、多数決になれば、負けです。

そこで、誰が採択を決定するかですが、Wiki では、先の引用に続いて

都道府県教育委員会では、市区町村教育委員会へのアドバイスの目的で、学識経験者や教育委員会関係者・教職員などからなる教科用図書選定審議会を設置することができる。

この組織は、アドバイスが目的で、採択に関わらないとなると、ここまで読む限りでは、実際に誰が選んでいるかよく分からない。

Wiki の情報もここまでで、更に具体的なことは、記されていません。
そこで、岐阜県の場合を紹介します。これは、確たる筋から聞いたことです。
岐阜県には、六つの地区に教育振興事務所が置かれ、各事務所の管轄管内に教科書採択協議会があります。
これは、管内の教育長など有識者で組織され、学校現場の各教科の全てに精通した人がなっているとは限りません。そこで、その下に、各教科ごとに、現場の教員からなる研究委員会があり、その委員会の報告に基づいて、各教科の採択する教科書を決めて、各市町村の教育委員会に、これに決めた、と通知をしています。

このような手続きは、都道府県によって、地区の分け方など、違いはあるようです。
だから、実質的な採択に関わるのは、もっとも下部の、現場の教員よりなる研究委員会ということになります。まあ、ある意味でそれは当然でしょう。
その委員会の委員名は、公表されず、むしろ秘密事項なのですが、なぜか、各教科書会社の営業担当者は、その名簿を手に入れています
そうなると、採択に絶対的な権限を持つ、研究委員に働きかけることが、教科書会社にとって、重要な仕事になります。

教科書の改訂は、三年後との部分改訂と、おおむね10年に一回の全面改訂ですから、一旦採択されれば、少なくとも三年は安泰です。普通は、次の学習指導要領全面改訂までの、9年か10年は、安泰です。
ですから、新しい教科書になった時の、営業マンの採択への働きかけは、熾烈を極めます。

多分ほとんどの教科書会社は、こういうこともしているはずです。各都道府県には、各教科ごのの小学校と中学校別々の研究会があります。例えば英語の場合ですと、略称「中学校英語教育研究会」、略称「中英研」です。
その有力メンバーを年に一回くらい、東京に招待して、著者との連絡会議を開きます。そして、彼らの意見を聞くわけです。夜は宴会で、そこで本音を探ります。どの都道府県にもボス的存在の教員がいて、その発言力が大きいようです。教科書会社としては、どのボスを自分の陣営に引き入れるかが死活問題になります。賄賂など動いていなければいいのですが。
私の友人は、ある教科書の代表著者をしていましたが、そういうボスの家へ、夜討ち朝駆けをしていました。藤掛さんもそういうことをしなければ、と advice を受けましたが、私はそういうことは性に合わないのでしませんでした。だから、私が著者になった教科書は、岐阜県では採用されませんでした。

まあ、こんな裏話、いくらしていてもきりがありませんが、要はです、教科書の場合、誰を頭において作るかといえば教科書採択に実質的に関わる研究委員会の委員になっている、現場の各教科の研究会のボスに気に入られるものを作ろうとするわけです。そういう人の意見は、営業担当者が吸い上げてきます。だから、教科書編修の場には、営業の責任者もちゃんといてあれこれ意見を挟みます。先に言いましたように、教科書会社の編集長は、各教科の識見より、そういう営業と難しい著者の間を取り持つ能力の方が重視されるのではないかな。

そういうことです。だから、実際に教科書を使う生徒の意見や、若手の意見は、全然反映されません。民主的には、教科書採択に際しては、一定期間の展示会があり、だれでも、教科書を見て、意見を提出できるようになっていますが、それは、見せ掛けだけだけです。
こういう状況で、教科書会社がデジタル教科書を作ると、どういうことになるか、皆さんも考えをめぐらせてください。
こういう状況が続くなら、教科書会社以外の IT 企業が、デジタル教科書に参入しようとしたら、どのような戦略をたてるでしょうか
 

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