「受胎告知」の「写実」は、どう変わってきたか。

キリスト教信仰の中核をなしているのは、「処女懐胎」です。つまり、人類創世において、Adam と Eve が「原罪」を犯したので、キリストの生母は、同じ罪を犯すわけには行かないのです。うっかりすると、この「原罪」とは、よく知られているように、Adam と Eve が、「禁断の木の実」(forbidden fruit) を食べたことだ、思い勝ちですが、そうではなくて、俗っぽく言ってしまえば、sex をしたことが、original sin です。
 それが、証拠に、マリアの「処女懐胎」は、日本語では、「無原罪の宿り」とされています。つまり、「原罪」のない「宿り」です。この「宿り」は、「子を宿す」という言い方があるように、「妊娠」することです。だから、英語では、もっと直裁に、医学用語でconception と言います。そして、「無原罪」にあたる英語は、immaculate で、これは、perfectly clean という意味です。
 つまり、sex をせずに妊娠することが、perfectly clean conception であって、反対に sex の結果、conceive されたのであれば、original sin を犯したことになる、という考えです。もっとも、キリスト教のすべての教派が、こういう考えではなくて、ローマカソリックの教義が、そうなのです。その辺のことは、下記 Wiki の記事に詳しく書いてあります。
 http://en.wikipedia.org/wiki/Virgin_birth_of_Jesus
 http://en.wikipedia.org/wiki/Original_sin
 http://en.wikipedia.org/wiki/Immaculate_Conception
 http://en.wikipedia.org/wiki/Forbidden_fruit
  この「無原罪の宿り」については、では、「聖書」にどう書いてあるか、というと、4福音書のうちで、ルカ伝とマタイ伝にしか書いてありません
  しかも、大天使ガブリエルが、マリアのところへ来たということは、ルカ伝にしか、記述はなく、マタイ伝では、平たく言えば、「なんで、俺とまだ何にもしていないのに、Mary は、はらんでしまったんか」と悩んで、言ってみれば文字通り泣き寝入りをしていたJoseph の夢の中に、天使が現れ、
"fear not to take unto thee Mary thy wife; for that which is conceived in her is of the Holy Ghost. And she shall bring forth a son, and thou shalt call his name Jesus: for he shall save his people from their sins." と告げたので、やっと納得したわけです。
 そこで、ルカ伝では、どう書いてあるか、というと、
And the angel came in unto her, and said, Hail, thou that art highly favoured, the Lord is with thee: blessed art thou among women.  And when she saw him, she was troubled at his saying, and cast in her mind what manner of salutation this should be. And the angel said unto her, Fear not, Mary: for thou hast found favour with God.
 となっています。もっと詳しくは、下記 Wiki を参照してください。
 http://en.wikipedia.org/wiki/Annunciation
 これだけの記述で、あなたなら、どういう場面を想像しますか。
 普通の人では、なんとも想像がつかないでしょう。
  しかし、Mary は、こうしてJesus を conceive (普通に訳せば、妊娠)したと、人々が信じてくれなければ、キリスト教を布教することは出来ないわけです。
  そこで、長い話を短くすれば、カソリック教会としては、人々には、Bible を読ませないようにして、自分たちででっち上げた話を「画家」に話して、彼らの想像力によって、Immaculate Conception が起こった場面を、描かせたわけです。
 そしてですね、Bible には、そういうことばは使われていないのに、大天使ガブリエルが、マリアに「あなたは神の子を身ごもった」と告げる場面を Annunciazione(英語では、annunciation、日本語「受胎告知」)と名づけました。
 前にも指摘しましたが、当時の「画家」たちは、自分の描きたいものを描くのではなく、客の注文におうじて描いていたわけで、お得意様の教会から、こういう絵を描いてくれといわれれば、喜んで描いたわけです。あの Da Vinci でさえ。
 もっと話すことがありますが、キリがないので、一応この辺で切り上げて、実際に画家たちがどのように想像して、この場面を描いたか、年代を追って紹介します。
画家の名前の後の数字は、制作年です。
 先ずは、Giotto 1306 と Siena の画家 Duccio 1308 です。
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 次は、左側はやはり Siena の画家 Simmone Martini 1333 と右側は、Fra Angelico 1430 です。
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 次の二つも、Fra Angelico 1443, 1442 です。
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 次の4つは、同時代に Firenze で活躍した「破戒僧」といわれた Fra Filllipo Lippi 1437, 1440, 1443, 1445 です。
 辻邦生『春の戴冠』では、フィリッポ親方として出てきます。私の大好きな画家です。
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 次の二つは、北方ルネッサンスの画家です。左は Rogier van der Weyden 1440、右はPetrus Christus 1452 です。
 http://en.wikipedia.org/wiki/Rogier_van_der_Weyden
 http://en.wikipedia.org/wiki/Petrus_Christus
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 次はちょっと時代を離れていますが、Piero della Francesca 1452 と Botticelli を並べてみました。作風の違いが分かるでしょう。
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 次は、言わずと知れた Da Vinci 1475 です。人体解剖図も描き、数々の科学的・技術的知識の持ち主だった Da Vinci が生殖の仕組みを知らないはずがないのに、
 どうして、Annunciazione を描いたか、不思議に思うのは私だけでしょうか。これは、写実の極みですね。数年前日本に来たとき実物を見た人もいるでしょう。
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 ちょっと時代を下がって、二人の Venezia の画家です。右が Carpaccio 1504、左が Titian 1519 です。
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 ついでながら、西洋料理の「カルパッチョ」は、
 赤色を基調とした作風が、皿に並べられた薄切りの生牛肉の色彩に類似しているため
 ということは、ご存知でしょうか。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/カルパッチョ
 更に時代を下って、El Greco 1575 1595 の2作品です。ちょっと「写実」から離れ気味です。
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 もっと、時代を下がった2作品です。Paolo de Matteis 1712 と Dante Gabriel Rossetti 1850。この二人の画家にあまりなじみのない人は下記 Wiki が参考に なります。
http://en.wikipedia.org/wiki/Dante_Gabriel_Rossetti
http://en.wikipedia.org/wiki/Paolo_de_Matteis
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Rossetti の Mary と Renaissance 期に描かれた Mary を比べてみてください。感想はご自由です。
今日は、Annunciation の画像をいろいろ Process するのに、時間がかかりました。
 一応、ここで切り上げ、続きは明日に。

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