『英語ものしり帖』「首の巻」<平民の斬首>

平民の斬首

ところで、時代劇でお馴染みの大岡越前守が活躍する江戸町奉行が裁いたのは、もっぱら町民や農民の犯罪でした。
武士の犯罪は、大名や旗本の家来の場合は、
主が家来の生殺与奪権があり手打ちにすることもできた

余談ですが、モーツアルトの『フィガロの結婚』を見ていると分かりますが、あの時代封建領主が領民や使用人に対する裁判権を持っていました。
江戸時代の武家・大名の場合は、それと同じと考えていいでしょう。

江戸時代の裁判制度について、こんなサイトがあります。誰が誰をどんなふうに裁いていたかよくわかります。
悪党達の末路 江戸時代の刑事裁判

先に紹介したように、
武士でない階級には磔、鋸挽、火罪、下手人、死罪、獄門が適用されたわけですが、
最後の三つの場合は「斬首刑」になります。
この場合、誰が「斬首」の役目をしたか、というと、headsman のような「専門家」がいたわけでなく、
同心のなかで、腕の立つものが引き受けていた
ということです。

では、大名・旗本屋敷で、家来が切腹でなく斬首刑になる場合は、誰が「首斬り」役をしていたか、「ものしり」としては知りたくなります。
時代劇や歌舞伎でよく
殿のお手討ち
になった、という話があります。
あの場合、殿は、どうやってお手討ちをしたか?
よくあるセリフに
「手討ちにいたす。そこへ直れ」
というのがあります。

歌舞伎で有名な『魚屋宗五郎』というのがあります。
旗本屋敷に奉公に上がった、宗五郎の妹お蔦が、不義の疑いで殿様に手討ちになった、という話ですが、
google してみても、どのようにして「お手討ち」になったか、分かりません。
首を刎ねられたか、首を切られて出血多量で死んだか?
まあ、どちらかでしょう。
詳しい話は、下記サイトでどうぞ。

江戸時代平和が続くと、殿様で刀が使えない人が出てきます。そうした場合、だれが「首斬り」役を勤めたか?
柴田錬三郎の時代小説に『御家人斬九郎』があります。渡辺謙主演によって、テレビドラマシリーズ化されています。
Wiki によると、
江戸時代の末期を舞台に、大給松平家に名を連ねる名門の家柄ながら無役・三十俵三人扶持の最下級の御家人である松平残九郎家正(通称、斬九郎)が、かたてわざと称する武士の副業によって活躍する物語。
画像

映像京都・フジテレビの制作によって、1995年から2002年まで、5つのシリーズ(全50話)として放送された。
主人公・斬九郎を演じたのは渡辺謙。.....時代劇作品の経験も豊富であった渡辺が、原作者が意図したとされる「明るい眠狂四郎」という斬九郎のキャラクターイメージが見事にはまり、......彼の当たり役となる。

「かたてわざ」というのは、辞書の定義によれば「片手間にする仕事」ですが、
斬九郎の場合は、その名の示すごとく、
人の首を斬る
ことでした。
つまり、アルバイトに「首斬り」をしていたわけです。

最下級とは言え御家人ですから、大ぴらにはできないのですが、斬九郎のことをどこからか聞きつけた大名や旗本屋敷から、
家来を「斬首」するときに、注文が入るわけです。
その場合、お屋敷から駕籠の出迎えがあり、どこの屋敷へ行くかわからないように目隠しされて連れて行かれます。
こうやって、大名・旗本の家来で罪を犯した者は、「斬首」されていたということです。
そして、首斬り役として、斬九郎のような剣の達人が頼まれていた、というのが、『御家人斬九郎』の話です。
本当にそういうことをする御家人などの武士がいたかどうかは、分かりませんが、ありそうな話ではあります。
ちなみに、私は、この5つのシリーズ(全50話)を、全部録画して持っています。

「ものしり」として、こういう話はどうですか。
新田次郎の初の時代小説に『壬生義士伝』があります。
Wiki によると
南部地方 (岩手県)盛岡藩の脱藩浪士で新選組隊士の吉村貫一郎を題材とした時代小説である。新選組で守銭奴や出稼ぎ浪人などと呼ばれた吉村貫一郎の義理と愛を貫く姿を描いた作品で、2000年に第13回柴田錬三郎賞を受賞した。
画像

2002年1月2日にテレビ東京でドラマ化されました。タイトルは、『壬生義士伝?新選組でいちばん強かった男?』。
そして、主役は、またしても渡辺謙。
『御家人斬九郎』が、柴田錬三郎作で、『壬生義士伝』が柴田錬三郎賞をもらい、そのどちらでも渡辺謙が主役で、どちらも剣の達人、
というだけでなく、実は、もう一つの隠れた共通点があるのです

「新選組でいちばん強かった男」が、なぜ新撰組の中で「守銭奴とか出稼ぎ浪人」などと呼ばれていたかです。
新撰組は、それ自体一つの藩のようなものですから、組内部の罪は自分たちで裁いていました。
そして、組の掟に背いたものは、その罪の軽重に応じて切腹または、斬首になりました。
斬首の場合も、切腹の場合の介錯も、どちらも首を斬る人間がいります。新撰組では、その役を果たすと金銭で報酬がもらえました。
かっての仲間ですから、自ら進んでその役をするものがいない中、吉村貫一郎は、故郷で待つ妻子への仕送りのため、いつもその役を引き受けていたのです。
剣技にすぐれていたので、適役でもあったわけです。
が、金のために、そういうことをする、と言って組内で陰口をたたかれていた、と言うわけです。

こういう話を見聞していると、なぜ、ヨーロッパでは、headsman という「首斬り」の専門家がいたのに、
日本には、斬九郎のような「片手間仕事」の「かたてわざ」首斬り人しかいなかった

ということが、だんだんわかって来ませんか。

先に指摘したように、Olympics games の fencing の試合を見ていても分かるように、ヨーロッパの sword は、「斬る」のでなく「突く」武器です。
一方、日本の剣は「斬る」武器です。

ヨーロッパの knight は「突く」ことに優れ、日本の武士は「斬る」ことに優れていたので、
「首を斬る」ことを「片手間」にできる人は、どこにもいたわけです。

ヨーロッパで「首を斬る」には、sword でなく、axe のような道具がいりました。axe は、そもそも tree を cut するものですが、それを behead に使うには、
専門的な技能が要ったのです。だから、headsman が生まれたわけです。
納得しましたか。

と、納得したところで、例外的な事例が見つかりました。
『ある首切り役人の日記』という本があります。
画像

Amazon.co.jp の内容紹介によると、

「生涯に361人を処刑した中世末期ニュルンベルクの死刑執行人フランツ親方が、その仕事ぶりを克明に記した日記。」
です。
この本を読むと、フランツ親方は、axe ではなくて、sword で、斬首刑を行ったとしています。
この本に出てくる斬首の挿絵は、全部 sword を使っています。その sword の写真もあります。

Wiki にこんな記事があります。
Executioner's sword
An executioner's sword is a sword designed specifically for decapitation of condemned criminals (as opposed to combat). These swords were intended for two-handed use, but were lacking a point, so that their overall length was typically that of a single-handed sword (ca. 80?90 cm). The quillions were quite short, and mainly straight, the pommel was often pear-shaped or faceted.

また、こんなサイトもあります。
Executions & Beheading at the Tower of London
Executions by Beheading or other methods
Executions by beheading were considered the least brutal of execution methods and were accorded to important State prisoners or people of noble birth. The usual implement used for beheading was the axe. On very rare occasions the sword was used, such as in the case of Anne Boleyn's execution.
この記事によると Ann Boleyn は、sword で behead されたことになっています。先に紹介した Ann Boleyn の beheading の画像では、ax になってました。

下の画像群は、これらの事実を証明するものです。
画像

上段の左は、Wiki の Franz Schmidt にある挿絵です。フランツ親方が sword で execution している場面です。
右の画像は、Ann Boleyn のロンドン塔における斬首の場面です。Headsman は、sword をかざしています。
中段の画像は、Executioner's sword で google すると出てくる sword の画像です。
フランツ親方の sword によく似ているのがあります。
先はとんがっていませんね。その代り blade がよく研がれて切れ味がよくなっているようです。
そして最後の画像は、英語『ブーリン家の姉妹』の最後の方で、Ann Boleyn が斬首される場面です。Headsman は sword を持ってます。YouTube に画像があります。

「首切(斬)り」の話が、ながながと続きました。血なまぐさい話はこのあたりで切り上げましょう。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック