オペラよもやま話 その22 映画監督がオペラ映画を撮ると、

先回は、映画監督の撮ったオペラ映画で、出演者に映画俳優を使ったものを紹介しました。
今回は、映画俳優を使わず、全部オペラ歌手を使って、オペラ映画を撮った映画監督の作品です。
これらの中で、ポピュラーなオペラをブロック体で示してあります。
Boris Gudonov (Mussorgsky) 1956; directed by Vera Stroyera
The Magic Flute (Mozart) 1975; directed by Ingmar Bergman
Tosca (Puccini) 1976; directed by Gianfranco De Bosio
Don Giovanni (Mozart) 1979, directed by Joseph Losey
Death in Venice (Britten) 1981; directed by Tony Palmer
The Bartered Bride (Smetana) 1981; directed by Frantisek Filip
Parsifal (Wagner) 1982, directed by Hans-Jurgen Syberberg
Carmen (Bizet) 1984; directed by Francesco Rosi
Madama Butterfly (Puccini) 1995 Frédéric Mitterand production
Tosca (2001) Benoît Jacquot

これらのオペラ映画を撮った映画監督は、沢山の映画作品がありますが、オペラ映画は、ここに示した一作だけです。つまり、生粋の映画監督と言えるでしょう。
これらのオペラ映画の監督で、もっとも有名なのは、The Magic Flute を撮った Ingmar Bergman でしょう。

Bergman 監督が、The Magic Flute を撮るに際して、こんなことを言っています。
Since we were not performing The Magic Flute on a stage but in front of a microphone and camera, we did not need large voices. What we needed were warm, sensuous voices that had personality. To me it was also absolutely
essential that the play be performed by young actors, naturally close to dizzy,
emotional shifts between joy and sorrow, between thinking and feeling.
Tamino must be a handsome young man. Pamina must be a beautiful young
woman. Not to speak of Papageno and Papagena.

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つまり、彼にとっては、この映画に出演する歌手は、歌手としてより、俳優として、この映画の物語にふさわしい人物でなければならなかったのです。映画のための歌唱は、劇場でなく、スタジオでマイクロフォンを使って録音されます。劇場の上演のように、広い劇場空間の隅々まで届く高音や、こちらの方がもっと難しいですが、ピアニッシモ(弱音)で、三階席まで声を届かせる技巧は必要ないわけです。
それより大事なのは、物語の人物が若者であれば、出演者も若者でなければならないし、絶世の美人が主人公であれば、それを演じる歌手も絶世の美人でなければならないわけです。
映画には、文学作品の映画化が多いです。文学作品の特に女性の主人公は、美人の設定になっています。作者がそのように書いてなくても、読者は、女主人公に美人を姿を想像します。だから、そういう作品が映画化されると、トルストイの『戦争と平和』の主人公ナターシャを演ずるのは Audrey Hepburn になります。『クレオパトラ』を演じるのは、Elizabeth Taylor であり、源氏物語を映画化した『式部の物語』の紫式部は、中谷美紀が演じることになります。
先回紹介した、映画俳優を起用した映画監督は、オペラ歌手は歌唱だけに採用して、出演者には、それぞれのオペラ映画の登場人物に、容姿・年齢にふさわしいオペラ歌手が見つからなかったから、そういう容姿・年齢の映画俳優を起用したわけです。
「演技力のないオペラ歌手なんて問題外よ」のマリア・カラスに言わせるように、オペラ映画が作られ始めたことは、演技力のない歌手のほうが多かったのです。たとえ演技力があっても、歌舞伎役者と違って、オペラ歌手は厚化粧することはしません。映画では、close up が多様されます。そうすると、年が分かってしまいます。『フィガロの結婚』の結婚の伯爵夫人は、ロッシーニの『セビリアの理髪師』の、当時15歳未満のロジーナです。『フィガロの結婚』は、『セビリアの理髪師』から、4,5年後の話です、伯爵夫人は、まだ20歳前後です。それを、40代の成熟した女性オペラ歌手が演じたら、close up で年齢丸わかりです。
Bergman 監督は、歌唱については、スタジオ録音なら一流歌手でなくても十分通用する歌手で、容姿・年齢でふさわしい歌手と出演させることで、物語の真実性というか信憑性を確保しようとしたのです。
劇映画や、テレビドラマで、もっとも必要とされる条件は、いかに本当の話と思わせるかです。ですが、本当にあった話と思われては困るので、特のテレビドラマの場合は、最後に、「この話はフィクション」と断りが画面に出ることが普通です。

ところが、上にあげたポピュラーなオペラの映画作品では、有名オペラ歌手が起用されています。誰でしょうか。
Tosca では、Raina Kabaivanska と Placido Domingo
Don Giovanni では、Ruggero Raimondi が主役です。
Carmen では、Juria Migenes, Placido Domingo, Ruggero Raimondi
もう一つの Tosca では、Angela Georghiu, Roberto Alagna, Ruggero Raimondi
気が付きましたか、Placido Domingo と Ruggero Raimondi が、繰り返し出ています。言うまでもないですが、若き日の Domingo です。
Ruggero Raimondi は、先回紹介した、Boris Godunov でも、映画俳優に混じって、オペラ歌手として出演していました。
私は、これらのオペラ映画の DVD を全て持っています。それらを見れば分かりますが、ここに出演しているオペラ歌手は、演技力だけでなく、その容姿・年齢も、それぞれの物語に相応いい歌手ばかりです。相応いいと思ったから、これらのオペラ映画の監督は、映画俳優を使わず、彼女、彼らを役者として使ったのです。
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Screenshot 2020-02-24 at 4.05.41 PM.pngDon Giovanni.jpg

オペラ歌手を、俳優として使った、ちょっと別のジャンルのオペラ映画があります。まずは、三部作と言われるものです。3つ揃えてDVD として発売されています。これらの三作品は、映画監督というより、Producer の Andermann が主導し、二人の映画監督を起用したオペラ映画です。
Tosca (1992)Andrea Andermann.
La Traviata (2000) Andrea Andermann.
Rigoletto (2010), Andrea Andermann.
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これを見ると分かりますが、Domingo は、Rigoretto では、Bariton として主役を演じています。そして、Tosca では、Tenor として出ています。Raimondi は、Rigoretto と Tosca に出ています。
この3つのオペラ映画が他のオペラ映画と違う点は、物語の真実性を更に高めるために、これらの物語が実際に起こった(フィクションですよ)場所と、時間で、音声と映像を同時収録したのです。これらの作品は収録時同時進行で、世界中に実況放送されました。本当に起こったことのように見せかけたのです。

Anderman のオペラ作品は、これら三作品の後、もう一作あります。
La Cenerentola (2012) Andrea Andermann
これには、有名なオペラ歌手は出演していませんし、大した評判にもならなかったようです。

冒頭にあげたオペラ映画 の 最後の方に Madama Butterfly があります。この映画には、有名オペラ歌手は出演していませんが、主役の Butterfly と女中の Suzuki には、中国人オペラ歌手が起用されています。世界のオペラファンには、日本人と中国人は全く同じに見えるでしょう。歌う言語はイタリア語ですから、容姿さえ日本人に見えれば構わないわけです。日本人オペラ歌手が見つかればもっとよかったでしょうが。
そこへ行くと、先回紹介した Karajan が監督した Carmen は、物語ではスペイン系ジプシー(ロマ)であるのに、Karajan は、平気で?黒人オペラ歌手の Grace Bumbry を出演させています。つまり、Karajan は、根っからの映画監督でなく、オペラ指揮者ですから、Carmen は、ジブシー的オペラ歌手であるべきという信念はなかったのです。
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と、まあ、このように、映画監督がオペラ映画を作ると、オペラの物語が、本当にあったように見せる作り方をするわけです。
そして、オペラ歌手を出演させる場合には、マリア・カラス言うところの演技力のある歌手を選ぶわけです。選ばれた歌手は、舞台では、演技よりむしろ歌唱に集中しなければならないところ、その歌唱については、既に録音済みですから自分の歌に口パクをするだけで、演技に集中できるわけです。演技に集中できれば、多少演技力不足していたオペラ歌手でも監督の演技指導で、OK がでるまで、やり直しをすれば、立派な出来栄えのオペラ映画ができあがる、というものです。
そして、オペラ映画を撮ったのは、映画監督だけでなく、実は本来のオペラ劇場の演出家にもいました。その人たちと、その作品については、次回に紹介します。
最後に付け加えます。皆さんも疑問に思うでしょうが、演技力の元祖 Maria Callas の出演したオペラ映画がないですね。オペラ映画が作られ始めた頃、Callas の年齢は、彼女が舞台で演じた役の人物の年齢を超えてしまっていたのです。オペラ映画は演技力だけではだめなのです。

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この記事へのコメント

大嶋昌治
2020年09月08日 00:53
はじめまして。福井市在住の大嶋昌治(おおしままさはる)と言います。聖書預言を伝える活動をしています。

間もなく、エゼキエル書38章に書かれている通り、ロシア・トルコ・イラン・スーダン・リビアが、イスラエルを攻撃します。そして、マタイの福音書24章に書かれている通り、世界中からクリスチャンが消えます。その前に、キリストに悔い改めて下さい。2020年を悔い改めの年にしてください。携挙に取り残された後のセカンドチャンスは、黙示録14章に書かれています。